はじめに
つい先日、星見屋の南口さんより、2024年6月16日にATLASによって発見されたばかりの地球接近小惑星 (NEA) 2024 MK について、Seestar S50 で観測したら面白くないですか?という感じのお話を頂戴しました。 事の発端は以下、新進気鋭の天文学者・紅山仁さん (博士) の X ポストとのこと。
それで、私も色々調べたり、はたまた紅山博士から DM で少しご意見を賜ったりする中で、「ふむ、これは多数の Seestar で観測したら市民科学として面白いかも」と思うようになりました。それで、例によってイチ観測者(個人)という形で、南口さんからの依頼として急遽「Seestarで小惑星 2024 MK を観測してみよう!」をでっちあげることにした次第です(※星見屋さんからの金銭の授受は一切ありません)。
あと、最初に断っておくと、恥ずかしながら小生は太陽系天体にはあまり明るくないです(専門は一応、新星などの変光星です)。ここに書くことは、科学的なお話よりも、観測手法的な側面が強いので、予めご了承ください。
小惑星 2024 MK について
2024 MK は先にも書いた通り、2024年6月に発見されたばかりの NEA (地球接近小惑星) です。どうやら (ESA などを見ると)、6月29日13:46 (UT) に最も地球に近づき、その距離は約29万kmに達するみたいです(月軌道よりも内側)。これは日本時間だとちょうど前半夜の29日22:46頃にあたります。MPC などの予報では見かけの明るさが約9等になっています。あと、小惑星の大きさは120~260mらしいです。

最接近時の 2024 MK の位置については、いて座の東側となります。そのため、お天気次第にはなりますが、高度的にも観測はしやすい位置だと思います。ちなみに(当然ながら)、スカイ・モーションは非常に速いです。MPC で調べてみると、日本時間29日23時頃だと、1分間に約380秒角 (約6.3分角) も動くようですね。Seestar の場合、最短露光時間が10秒なので、観測に成功すれば、1枚の露光で約1分角くらい線状に延びて写ると考えられます。そのため、約9等の天体とはいえ、Seestarでどの程度のクオリティで写るかは、やってみないとわからない部分があります。夜空の明るさの影響も受けそうですが、筆者の肌感覚では市街地で無ければ、十分観測できると考えています。
Seestar を使った観測方法について
【追記・修正 / 2024.06.28, 23時45分頃】
JPL Horizons system から最新の軌道要素を用い、予報位置・時刻に関して、記事内の図と時刻関係を更新しました。Stellarium 内の軌道要素を自力で変更する方法はこちらへ追記。
【紅山博士のご助言を受けさらに追記・修正 / 2024.06.29, 1時25分頃】
NEA のような天体の場合、地球接近の前後で軌道要素が変化するらしく(地球の重力の影響を強く受けるから当然か)、JPL の ephemeris はこれを考慮して計算しているとのこと。Stellarium などの星図ソフトは、この点が考慮されておらず、公開されている軌道要素を与えて描画させても、正しい予報ができません。(危うく、誰も観測できないところでした…)
今回の観測では (紅山博士のご助言を受け)、多数の Seestar ユーザーによって、小惑星 2024 MK の明るさ (見かけの等級) を得ることが主な目的となります(紅山博士によれば、「明るさの情報のみから小惑星の表面状態を推定できる可能性がある」とのことです)。
ただし、Seestar は直接 2024 MK に GoTo するための導入データがありません。そのため、Seestarが持っている天体リストを使い、その領域を小惑星が通過するところを観測する、待ち伏せスタイルで実践する方法をご紹介します(これならビギナーでも簡単だと思われます)。

今回、Stellarium など星図ソフトの計算結果 (位置・時刻) は
使わない方が良いです!!上図のように、大きく時刻・位置がずれます。
実は Seestar で小惑星 2024 MK を観測した場合、NGC6818 をちょうど中央に導入しておくと、2024年6月29日23時8分~23時15分 22時27分~22時34分頃に、約7分間かけて視野内を通過していきます(徳島県阿南市の場合)。他にもNGCやIC天体の近くを通過しないか調べましたが、偶然にもこの天体のみが、最もドンピシャで良い待ち伏せ対象でした。箇条書きで簡単にま観測方法をまとめると…
- 詳細設定で「画像補正中の画像を保存する」に必ずチェックを入れよう。
- 6月29日は
23時前22時頃から観測準備をしよう(時間に余裕を持って)。 - Seestar でNGC6818を導入しよう(南東方向、高度約30°)。
- 観測開始(本番)前に、一度撮像テストをしましょう(露出は10秒で!)。
※ダークなどの撮像を事前にしておくため(本番の撮像がスムーズになる)。 23時4~5分22時25分頃から撮影をスタートさせよう。- 無事に小惑星が線状に写りこんだら、視野外に消えるまで撮影(スタック)を継続しよう。
ご自身の観測地(緯度経度)における詳しい位置や通過時刻を知りたい場合は、Stellariumを使うと簡単に調べられます(参考: Stellarium に任意の小惑星・彗星を追加する方法)。
※今回は JPL の Horizons system を使いましょう!
なお、今回の観測データとして重要なのは、スタックされたFITS画像ではなく、スタック前の個々に保存されたFITS画像となります。これは先の箇条書きの1番目の設定をすることで、Seestarの内部ストレージに別途保存されます(※ただしスタックが成功したファイルだけ)。この詳細設定の手順については以下をご参照ください:
【観測に強い方へ】
もし可能であれば、NGC6818の視野外に小惑星が出たあとも、異なる視野で観測を続けてみてください。異なる視野・時刻・地域で観測されたデータもサイエンスに役立ちます!さらに付け加えるなら、観測開始は22時30頃 22時頃から始めてもかまいません。
ただし、いずれの場合もNGC6818とは異なる視野になります。Seestar は任意の RA, Dec を入力して導入できないので、観測視野はご自身で星図から見定め、 2024 MK を待ち伏せておくと失敗が少なくて良いでしょう。観測の計画をたてるさいは、ステラナビゲーターや、Stellariumに 2024 MK を登録して、事前シミュレーションして待ち伏せ場所を決めておくと良いです。 ※今回は JPL の Horizons system を使いましょう!
観測に成功した場合について(報告)
Seestarで観測された方は、是非以下のフォームより観測の簡易的なご報告をお願い申し上げます(測光作業は不要です)。画像データの報告方法については、別途検討したいと思っていますので、準備ができ次第、改めて報告者の皆様に E-mail でご連絡を差し上げます (From: Imamura Kazuyoshi)。
その他、もし何かご不明な点があれば、この blog 記事のコメント欄に、ご記入ください。
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