Stellarium は小惑星や彗星のリストを一応持っているのですが、デフォルトではそんなに多くない印象です。プラグイン機能を使えば、MPC から大量のデータを DL して放り込むことができるっぽいのですが、今回は任意の天体だけを追加する方法について、備忘録的に書き残します(筆者の Stellarium のバージョンは 23.3.0 です)。

Stellarium を開いたら、まず「設定画面」をクリックします。

設定画面が現れたら、次に「プラグイン」を押します。

続いて、左側のメニュー内から「太陽系エディター」を選び、「設定」ボタンを押しましょう。すると以下のような小窓が開きます。
新たに開かれた小窓の中に、「太陽系天体」というタブがあるのでこれを押します。そして、「MPCフォーマットで軌道要素を取得」というボタンがあるので、これを押します。すると、以下のようにまた新しい小窓が登場します。
また新しく出た小窓の中にある「オンライン検索」というタブを押します。すると、任意の小惑星や彗星を検索するための入力欄が出てきます。ここでは、ごく最近発見された (2024年6月16日) 小惑星 “2024 MK” について検索します。検索するときは、虫眼鏡のボタンを押しましょう。
MPC にデータがあれば、検索にヒットしてくれます。チェックボタンを押して、「天体の追加」ボタンを押せば、自動的にStellarium内のリストに取り込まれます。ちゃんと追加できたかどうかを確かめたい場合は、先に登場した小窓「太陽系天体」のタブ内にある天体リストを確認すると良いです。

無事に任意の小惑星・彗星が追加できれば、Stellarium の星図内で位置や見かけの明るさなどの情報を確かめることができます。
なお市販(国産)のステラナビゲーターでは、彗星や小惑星のリストは、ソフト内で更新をかければ、ある程度新しく発見された天体も拾ってくれます。しかし、発見後間もない場合は、対応しきっていないこともよくあります。そんなとき、ステナビでは自分で軌道要素を打ち込めば、任意の天体を追加できます。この場合は自力で軌道要素を MPC や JPL などで確認・入力する必要があります(移動天体に慣れた観測者であれば朝飯前な作業かもしれません)。ただ、この作業はあまりビギナー向きとは言えません。
一方で Stellarium は、仮に軌道要素の意味を理解していなくても、MPC 検索にヒットしてくれれば、簡単に任意の小惑星・彗星を追加することができました。フリーソフトでありながら、このプラグインは初心者にも大変優しい機能といえるでしょう。
追記 (2024/06/28)
新しく発見されたばかりの小惑星や彗星の場合、観測点が増えることで、随時軌道要素が更新されることがよくあります。その場合、予報の時刻や位置が少し変わることもあるので、綿密なスケジュールで観測を行う場合は、軌道要素の修正はやっておいたほうが良いでしょう。そのため、Stellarium であっても、自力の手入力による軌道要素の修正が求められる場合があります。以下、簡単にその方法を書き残す。
まずは JPL の Horizons system より最新の任意の天体の最新の軌道要素を調べましょう(例: 2024 MK)。
※2024 MK のような NEA は、地球に近づくほど、地球の重力の影響を受けて刻々と軌道要素が変化します。このような天体の場合、JPL はこの影響を考慮して計算結果 (ephemeris) が作られます。しかしStellariumなどの星図ソフトでは、地球の影響が考慮されいないので、要注意です。
上記のような感じで2024 MKの軌道要素を呼び出してみると、以下のような情報が得られます(一部抜粋)。
JPL/HORIZONS (2024 MK) 2024-Jun-28 06:53:02
Rec #:50675288 (+COV) Soln.date: 2024-Jun-28_00:05:25 # obs: 120 (52 days)
IAU76/J2000 helio. ecliptic osc. elements (au, days, deg., period=Julian yrs):
EPOCH= 2460477.5 ! 2024-Jun-16.00 (TDB) Residual RMS= .11432
EC= .5479829575940028 QR= 1.009156750528175 TP= 2460501.9751860844
OM= 277.8791599915774 W= 13.22263263112265 IN= 8.456112803527166
A= 2.232563500607485 MA= 352.7685673489779 ADIST= 3.455970250686795
PER= 3.33591 N= .295459762 ANGMOM= .021500267
DAN= 1.01872 DDN= 3.34835 L= 290.9630177
B= 1.927562 MOID= .00188307 TP= 2024-Jul-10.4751860844
Asteroid physical parameters (km, seconds, rotational period in hours):
GM= n.a. RAD= n.a. ROTPER= n.a.
H= 21.803 G= .150 B-V= n.a.
ALBEDO= n.a. STYP= n.a.
次に、Stellarium 内に保存されている 2024 MK の軌道要素を手動で更新しにいきます。そのためには、まず Windows の場合「隠しファイル」が見えるようにしておきましょう。その上で、以下のディレクトリまで辿り着いてください (XXXXの部分はWindowsのユーザー名です)。
C:\Users\XXXX\AppData\Roaming\Stellarium\data
”data” のディレクトリに辿り着いたら、そこに “ssystem_minor.ini” というファイルがいるので、これをメモ帳などの適当なエディタで開きましょう。その中に、2024 MK の軌道要素が記述された部分があるはずです。
目的の天体の軌道要素の部分が見つかったら、あとは数値を JPL からコピペし、手動で書き換えていきます。書き換えが済んだら、上書き保存してください。そして、Stellariumを起動すれば、新しい軌道要素で小惑星や彗星を表示することができます。なお、コピペすべきパラメータの対応表は以下の通りです(※JPLは0.2122などを “.2122” という感じで、ゼロを省略しているので注意):
Stellarium の表記 | JPL の表記 |
---|---|
orbit_SemiMajorAxis | A |
orbit_Epoch | EPOCH |
orbit_Eccentricity | EC |
orbit_AscendingNode | OM |
orbit_ArgOfPericenter | W |
orbit_Inclination | IN |
absolute_magnitude | H |
orbit_MeanAnomaly | MA |
orbit_MeanMotion | N |