2025年3月21日に、いよいよ ZWO 社の Seestar シリーズに EQ (赤道儀) モードが公式アップデートされました。アプリのバージョンは 2.4.0 となります。Seestar は登場時から経緯台式での運用が基本でしたが、一部の玄人の間では非公式に EQ スタイルで楽しむ方もいました。しかし、非公式な手法では Dec がマイナスの天体に対しては観測が行えませんでした。今回の公式アップデートでは、そのような制限は無く、さらに極軸合わせはアプリの指示に従って容易に極軸合わせが行えます(ただし、補正用に何枚か撮影を行っているので、頭上に星が見えている必要がある)。
極軸合わせはまず、高度角を大雑把に合わせ、その後 “Get Polar Align Deviation” を押すと、Seestar が頭上の星を数カ所撮影しだします。しばらくすると、高度角と方位角を微調整するための数字が出てきます。数字がオールグリーンになるまで調整すると、最終的に緑色のチェックマークが現れます。なお、EQ モードに切り替えると、電源のパイロットランプが「緑色」になります。Seestar の極軸合わせについては、アプリ内に丁寧なチュートリアルもあるので、1回それを見ておけば、多くの人が使える気がします。
EQ モードで撮影を行うと、当然ですが画像の上が北になり、そして視野回転が無くなるため、長時間の観測に大きな恩恵をもたらしてくれます。とりあえず、上図のように見栄えのする M42 をテストで撮り続けても良かったのですが、EQ モードなら連続測光観測が行いやすいのではと思い、食変光星を撮って一晩遊びました。
3月21日の晩、何か良さげな食がないか、神奈川県の永井氏の予報を参照したところ、24時過ぎに主極小となる UV Leo という星があったので、Seestar を向けました(このとき、任意のRA, Decを Seestar に登録して導入)。導入後、やはり画像の上が北なので、目的星が同定がしやすく、EQ モードなら他の変光星の観測キャンペーンもやりやすいのでは、という期待も膨らみます(皆、同じ比較星が使えるし)。
早速、測光もしてみると(AIP4Win V2 にて)、イイ感じの主極小を捉えることができました。口径5cm、約8万円の機材でこれだけの観測ができるとは。こうなると、明るめの矮新星のスーパーアウトバースト(スーパーハンプ)もSeestarで観測してみたくなってきます。
ただ、Seestar は 5~6 枚ごとに、恐らく視野の位置修正のためのジャンプが入るため、アパーチャーがそのたびにずれてしまいます。ソフト側でうまく追いかけてくれることもありますが、AIP4Win では効率があまり良くありませんでした。このあたり、連続測光観測の普及を目指すのであれば、AstroImageJ や Muniwin なんかも使ってみて、どれが最も効率良く測光できるのか、試してみる必要がありそうです。
ところで、Seestar S50 の場合、架台(三脚)との接続には注意点がありました。
Seestar S50 は、上図のように三脚との固定ネジの円形部分が駆動することで、方位方向に動きます(EQモードだと赤経方向)。この底面には4ヶ所ゴム脚がついていて、円形の駆動部分よりも高さ(厚み)があります。そのため、EQモードで使用するさい、冒頭の写真のように、カメラ三脚に装着するときは、三脚側の台座の面積が大きいと、ゴム脚が台座に干渉して動作不良が発生します (当然、経緯台式で運用する場合も注意すべきことですが)。
実は冒頭の写真のような感じで最初テストしていたら(室内から)、突然追尾が暴れ出し、しばらく原因がわかりませんでした。ただ望遠鏡の傍にいって動作を観察すると、「ブブブっ」と、何かがこすれるような音がしていたので、「あ!ゴム脚が原因か!!」と犯人を特定できたのでした。
S50 を使っている方は、本体の大きさと重量を考えると、EQモードを使うときは(重心がアンバランスになるので)、なるべくしっかりした三脚に固定したいと思うはずです。しかし、しっかりした三脚は台座の面積が大きい場合も少なくないと思いますので、S50 を固定する場合は、駆動時にゴム脚が干渉しないよう、何かゲタをはかせて装着すると良いのかもしれません。一方で、姉妹機の Seestar S30 はさすが後継機で、底面の駆動部分が約5mmの高さをもっています。こちらはゴム脚も無いので、S50 のような心配は無用でしょう。
さいごに
最後に EQ モードを使った感想等をまとめておく:
- とりあえず、最高のアップデートだ。
- 画像の上が北だと、星の同定がやりやすい!
- 視野回転が無いと、長時間の観測がしやすい!
- フォーク式赤道儀になるので、子午線反転がない!
- 観測の幅が広がる。
- EQモードでも5~6枚ごとに視野調整(ジャンプ)が入る。
→そもそもこの機能はEQモードに必要か?
→測光のとき、アパーチャーが外れやすい。 - 任意の天体登録、プランモード、EQモードが揃ったことで、Seestar を使った変光星観測が格段に実施しやすくなった気がする。
- T CrB 以外で、市民科学的な観測キャンペーンの更なる展開が期待できる(同一機材、同一の比較星を使って)。