SeeStar S50 を使った食変光星の測光観測

 先月、10月にアップした “SeeStar S50 を使った測光観測の検証” の続きを書きたいと思う。ただし、相変わらず変光星の測光観測について予備知識が無いとわかりにくい点が多々あると思うので、この点は予めご容赦願いたい。本件は、星見屋さんから依頼を受け、日本変光星研究会の所属として、機器の観測的な検証を行っている。

 今回は、前回の記事の末尾に「さらに検証したいこと」として挙げていた短周期の食変光星の測光を実施した。ターゲットにしたのは「くじら座TW星」という星である(以下、TW Cetと表記)。観測は2023年10月15日の晩に実施し、約2時間程度、連続で撮影をし続けた。この星を選んだのは、永井和男氏による食変光星の予報に従えば、明るさ&変光幅を加味した上で、ちょうど副極小が観測できそうだったことが大きい。

 SeeStar S50 はアプリのバージョンアップに伴い、様々な機能が付加されている。その中で、Ver. 1.8 からスタック前の画像を個々に保存する機能が備わった。このオプション設定を用いることで、連続測光観測 (time-resolved photometry) が可能になると思い、検証した次第である。

 結論(光度曲線)から先に示すと、食変光星のリアルな変動(副極小)が測光できていそうである(観測開始の明るさから約0.6等暗くなり、また明るくなる様子が受かっている)。測光にはRGB分解後のG画像を用いており、アパチャーを使った比較星との差測光となる。測光ソフトは、とりあえず手持ちでササっと動かせる AIP4Win V2 を使用した。光度曲線上には2点ほど大きくずれた数値もあるが、これは K-C も連動しているので、突発的なノイズの影響かもしれない。口径5cmではあるが、明るさや変光幅次第では SU UMa 型矮新星の superhump も観測できそうな気がする。

SeeStar S50 で観測した食変光星 TW Cet の光度曲線 (2023年10月15日). 凡例にも示した通り、K-C は -0.4 等オフセットしている.

 ちなみに、TW Cet という星は EW 型の食変光星で、軌道周期は約7.6時間。変光幅は約10.4等~約11.2等となる。その他、詳細は AAVSO の VSX をご覧頂ければと思う。なお光度曲線化は、エクセルでも gnuplot でもなんでも良いのだが、院生時代に自作した R コードを久々に走らせた。

2023年10月15.6323日 (UT) 撮像された TW Cet の画像 (debayer 後のカラー画像). 露出時間は10秒. V=TW Cet, C=比較星 (Vmag=9.44), K=チェック星 (Vmag=10.42). 南中付近で撮影した画像なので、画像の上がほぼ北になる. 比較星及びチェック星の明るさはUCAC4参照.

 上図が観測によって得られた画像の1枚だ。画像内のてきとうな約9等と約10等の星を比較星とチェック星に選んだ。このくらい目的星に近ければ、長時間(約2時間)の観測に伴う視野回転で、画角外に逃げていくことはなかった。

SeeStar S50で連続測光観測してわかったこと

 今回、観測データを撮ることに関しては、機材はほったらかしで良いので、大変楽チンだった(いつの間にか私は寝ていた)。そして後日、いざデータ処理(測光)してみようと手を動かしたところ、以下のことがわかったので、まとめておく。

  • スタック前の個々の画像データは debayer 前の画像(モノクロ)として保存されている。
    (実はスタック後の画像は debayer された状態で保存されている)
  • RGB 分解するには一旦 debayer 処理(3色カラー化)が必要となる。
  • スタック前のFITSファイルは、ファイル名に保存時刻が使われているが、FITSヘッダーには露出開始時刻で記録されている!(これは何気にありがたい)
    ※スタック後の画像のFITSヘッダーの時刻は画像保存時刻。
  • 測光中に気づいたが、10~20枚おきに星が写っている場所がジャンプする。そのため、AIP4Winの場合、アパーチャーの設定し直しが頻繁に起こる。
  • この現象は恐らく、SeeStar が追尾過程で時々視野を大きく修正しているのだと思われる。ただし、線状に写っている画像はほとんど無かったので、スタック処理中の数秒の間に修正されているっぽい。

debayer 化とRGB分解

 連続測光の場合、一晩に何百枚もデータを取得する。そのため、SeeStar S50で取得したスタック前の個々のファイルについて、連続測光を行う場合(RGB分解するためにも)、まずは大量のファイルを debayer 処理しなければならない。その後、測光に使いたいG画像を抽出するために、 RGB 分解する流れになる。この二つの事前処理は、ステライメージのワークフロー記録機能を使ってバッチ処理することも可能だ。しかし今回の検証では「普及」ということを考慮し、有料ソフトではなく、なるべくGUIがベースとなるフリーソフトを用いることを第一とした(Python なども候補に入れたいところだが、今回は敷居が高くなるのであえて候補外とした)。

 そこで、色々模索しているときに、星見屋さんの南口氏に教えて頂いたのが、Siril というフリーの天文画像処理ソフトである。

Siril の GUI (Windows版). 日本語にも多少対応している.

 このソフトは大量の画像ファイルに対し、 debayer 化する自動処理が標準で備わっている。カラーCMOSで撮ったFITSファイルは、観賞用の画像を処理するときもdebayer 化しないと前に進めないので、これは多くの人がハッピーになる機能だ。そして RGB分解についても、Siril で行うことができる。しかし、Siril の RGB分解は標準機能のままでは、単一のファイルに対してしか実行できない。

 その一方で、Siril にはコマンドラインが打てる機能がある。さらにスクリプトを読み込むこともできるので、うまくやれば、大量の画像ファイルに対して、自動でRGB分解したり、あるいはG画像のみ保存するような指令が出せるのではないかと思われる。この点について、一度半日くらい模索したのだが、残念ながらナンチャッテ三流 R 使いではすぐに解決できなかった(あと測光機能まであるらしいので、うまく活用すれば Siril 1本で全部解決しそうな気もする)。今回の検証では、大量の画像ファイルを一括してRGB分解する処理は、一旦他のソフトに譲ることにした。

 国内では同様の自動処理ができるフリーソフトとして、 “3p_rgb” という3色のFitsファイルをRGBに分解できるものがある。これは永井和男氏がデジカメ測光用に開発されたもので、 G 画像のみの抽出も可能な優れもの。ところが、私の環境下ではなぜか、debayer 後の FITS をRGB分解すると、全てのカウント値が約-3万くらいオフセットされたような状態で保存される現象が起きたため、今一歩のところで活用を断念することにorz

 そこで、他に色々調べたところ、フリーソフトとして Fitswork というソフトが浮上した。このソフトには様々な画像処理について、複数のファイルに対してバッチ処理してくれる機能がある。その中にRGB分解も含まれているが、G画像のみ抽出するというような、痒いところに手が届く機能は無い。さしあたり検証に不要な R, B の分解画像については、PCのストレージを圧迫するので、私はすぐに削除した。

Fitswork のGUI (英語版). バッチ処理の中に、RGB分解の項目があり、複数のファイルを自動で処理してくれる. ソフトは日本語版もあるが、個人的には英語版のほうがわかりやすい.

さいごに(まとめと課題)

 今回の検証を以下のようにまとめる。

  • SeeStar S50 で短周期の食変光星(TW Cet)の連続測光観測を行った(約2時間)。
  • AIP4Win V2 でG画像について測光した(アパチャー測光、差測光)。
  • その結果、観測開始の明るさから約0.6等暗くなったあと、再び明るくなる副極小を捉えることができた。

  • スタック前の個々のFITS画像はdebayerされていない(モノクロ状態)。
    (スタック後の画像はdebayer済みで保存されている)
  • スタック前の個々の画像の時刻は、FITSヘッダーに露出開始時刻で記録されている。

  • Siril の標準機能で、大量のFITSを自動でdebayer 化できる。
  • Fitswork の標準機能で大量のFITSを自動でRGB分解できる。

  • 測光ソフトにかけるまで、現状debyer 化とRGB分解が2本のソフトにまたがり作業が煩雑。
  • 自前のスクリプトを書いてSiril 1本で debayer 化とRGB分解ができないか?
    (ついでに Siril で測光もやってしまう?)
  • SeeStar S50 を使った変光星観測は、ビギナーユーザーには現状1日1点で済むような観測を提案するほうが、ハードルが低くて良さそう。
  • 本機を使った連続測光観測はデータ処理の面で、ハードルが少々高くなりそうだが、Siril の活用次第で、状況は変わるのかもしれない。
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SeeStar S50 を使った食変光星の測光観測 への4件のフィードバック

  1. 鈴木文二 のコメント:

    素晴らしいです。
    RGB関係の取り扱いは、ちょいと複雑ですね。
    いろいろ教えてください。

    • IMAKO のコメント:

      コメントありがとうございます!デジカメ測光もちょっと面倒なところがありますが、カラーCMOSもそのひと手間は同じなのかなと、思います。こちらこそ、今後とも宜しくお願い致します☆

  2. 松本直記 のコメント:

    Seestarで測光ができると生徒研究の幅がグッと広がります。教えていただきありがとうございます。もう一台なんとかして買おうかな?

    • IMAKO のコメント:

      コメントありがとうございます!オールインワン望遠鏡ということもありますし、若い人たちの課題研究や天文活動の、新しい観測手段になるのかもしれない。そんな気がしております。そのためには、私のほうで、チュートリアルの作成も頑張らねばなりませんね。

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