SeeStar S50 を使った食変光星の測光観測

 先月、10月にアップした “SeeStar S50 を使った測光観測の検証” の続きを書きたいと思う。ただし、相変わらず変光星の測光観測について予備知識が無いとわかりにくい点が多々あると思うので、この点は予めご容赦願いたい。本件は、星見屋さんから依頼を受け、日本変光星研究会の所属として、機器の観測的な検証を行っている。

 今回は、前回の記事の末尾に「さらに検証したいこと」として挙げていた短周期の食変光星の測光を実施した。ターゲットにしたのは「くじら座TW星」という星である(以下、TW Cetと表記)。観測は2023年10月15日の晩に実施し、約2時間程度、連続で撮影をし続けた。この星を選んだのは、永井和男氏による食変光星の予報に従えば、明るさ&変光幅を加味した上で、ちょうど副極小が観測できそうだったことが大きい。

 SeeStar S50 はアプリのバージョンアップに伴い、様々な機能が付加されている。その中で、Ver. 1.8 からスタック前の画像を個々に保存する機能が備わった。このオプション設定を用いることで、連続測光観測 (time-resolved photometry) が可能になると思い、検証した次第である。

 結論(光度曲線)から先に示すと、食変光星のリアルな変動(副極小)が測光できていそうである(観測開始の明るさから約0.6等暗くなり、また明るくなる様子が受かっている)。測光にはRGB分解後のG画像を用いており、アパチャーを使った比較星との差測光となる。測光ソフトは、とりあえず手持ちでササっと動かせる AIP4Win V2 を使用した。光度曲線上には2点ほど大きくずれた数値もあるが、これは K-C も連動しているので、突発的なノイズの影響かもしれない。口径5cmではあるが、明るさや変光幅次第では SU UMa 型矮新星の superhump も観測できそうな気がする。

SeeStar S50 で観測した食変光星 TW Cet の光度曲線 (2023年10月15日). 凡例にも示した通り、K-C は -0.4 等オフセットしている.

 ちなみに、TW Cet という星は EW 型の食変光星で、軌道周期は約7.6時間。変光幅は約10.4等~約11.2等となる。その他、詳細は AAVSO の VSX をご覧頂ければと思う。なお光度曲線化は、エクセルでも gnuplot でもなんでも良いのだが、院生時代に自作した R コードを久々に走らせた。

2023年10月15.6323日 (UT) 撮像された TW Cet の画像 (debayer 後のカラー画像). 露出時間は10秒. V=TW Cet, C=比較星 (Vmag=9.44), K=チェック星 (Vmag=10.42). 南中付近で撮影した画像なので、画像の上がほぼ北になる. 比較星及びチェック星の明るさはUCAC4参照.

 上図が観測によって得られた画像の1枚だ。画像内のてきとうな約9等と約10等の星を比較星とチェック星に選んだ。このくらい目的星に近ければ、長時間(約2時間)の観測に伴う視野回転で、画角外に逃げていくことはなかった。

SeeStar S50で連続測光観測してわかったこと

 今回、観測データを撮ることに関しては、機材はほったらかしで良いので、大変楽チンだった(いつの間にか私は寝ていた)。そして後日、いざデータ処理(測光)してみようと手を動かしたところ、以下のことがわかったので、まとめておく。

  • スタック前の個々の画像データは debayer 前の画像(モノクロ)として保存されている。
    (実はスタック後の画像は debayer された状態で保存されている)
  • RGB 分解するには一旦 debayer 処理(3色カラー化)が必要となる。
  • スタック前のFITSファイルは、ファイル名に保存時刻が使われているが、FITSヘッダーには露出開始時刻で記録されている!(これは何気にありがたい)
    ※スタック後の画像のFITSヘッダーの時刻は画像保存時刻。
  • 測光中に気づいたが、10~20枚おきに星が写っている場所がジャンプする。そのため、AIP4Winの場合、アパーチャーの設定し直しが頻繁に起こる。
  • この現象は恐らく、SeeStar が追尾過程で時々視野を大きく修正しているのだと思われる。ただし、線状に写っている画像はほとんど無かったので、スタック処理中の数秒の間に修正されているっぽい。

debayer 化とRGB分解

 連続測光の場合、一晩に何百枚もデータを取得する。そのため、SeeStar S50で取得したスタック前の個々のファイルについて、連続測光を行う場合(RGB分解するためにも)、まずは大量のファイルを debayer 処理しなければならない。その後、測光に使いたいG画像を抽出するために、 RGB 分解する流れになる。この二つの事前処理は、ステライメージのワークフロー記録機能を使ってバッチ処理することも可能だ。しかし今回の検証では「普及」ということを考慮し、有料ソフトではなく、なるべくGUIがベースとなるフリーソフトを用いることを第一とした(Python なども候補に入れたいところだが、今回は敷居が高くなるのであえて候補外とした)。

 そこで、色々模索しているときに、星見屋さんの南口氏に教えて頂いたのが、Siril というフリーの天文画像処理ソフトである。

Siril の GUI (Windows版). 日本語にも多少対応している.

 このソフトは大量の画像ファイルに対し、 debayer 化する自動処理が標準で備わっている。カラーCMOSで撮ったFITSファイルは、観賞用の画像を処理するときもdebayer 化しないと前に進めないので、これは多くの人がハッピーになる機能だ。そして RGB分解についても、Siril で行うことができる。しかし、Siril の RGB分解は標準機能のままでは、単一のファイルに対してしか実行できない。

 その一方で、Siril にはコマンドラインが打てる機能がある。さらにスクリプトを読み込むこともできるので、うまくやれば、大量の画像ファイルに対して、自動でRGB分解したり、あるいはG画像のみ保存するような指令が出せるのではないかと思われる。この点について、一度半日くらい模索したのだが、残念ながらナンチャッテ三流 R 使いではすぐに解決できなかった(あと測光機能まであるらしいので、うまく活用すれば Siril 1本で全部解決しそうな気もする)。今回の検証では、大量の画像ファイルを一括してRGB分解する処理は、一旦他のソフトに譲ることにした。

 国内では同様の自動処理ができるフリーソフトとして、 “3p_rgb” という3色のFitsファイルをRGBに分解できるものがある。これは永井和男氏がデジカメ測光用に開発されたもので、 G 画像のみの抽出も可能な優れもの。ところが、私の環境下ではなぜか、debayer 後の FITS をRGB分解すると、全てのカウント値が約-3万くらいオフセットされたような状態で保存される現象が起きたため、今一歩のところで活用を断念することにorz

 そこで、他に色々調べたところ、フリーソフトとして Fitswork というソフトが浮上した。このソフトには様々な画像処理について、複数のファイルに対してバッチ処理してくれる機能がある。その中にRGB分解も含まれているが、G画像のみ抽出するというような、痒いところに手が届く機能は無い。さしあたり検証に不要な R, B の分解画像については、PCのストレージを圧迫するので、私はすぐに削除した。

Fitswork のGUI (英語版). バッチ処理の中に、RGB分解の項目があり、複数のファイルを自動で処理してくれる. ソフトは日本語版もあるが、個人的には英語版のほうがわかりやすい.

さいごに(まとめと課題)

 今回の検証を以下のようにまとめる。

  • SeeStar S50 で短周期の食変光星(TW Cet)の連続測光観測を行った(約2時間)。
  • AIP4Win V2 でG画像について測光した(アパチャー測光、差測光)。
  • その結果、観測開始の明るさから約0.6等暗くなったあと、再び明るくなる副極小を捉えることができた。

  • スタック前の個々のFITS画像はdebayerされていない(モノクロ状態)。
    (スタック後の画像はdebayer済みで保存されている)
  • スタック前の個々の画像の時刻は、FITSヘッダーに露出開始時刻で記録されている。

  • Siril の標準機能で、大量のFITSを自動でdebayer 化できる。
  • Fitswork の標準機能で大量のFITSを自動でRGB分解できる。

  • 測光ソフトにかけるまで、現状debyer 化とRGB分解が2本のソフトにまたがり作業が煩雑。
  • 自前のスクリプトを書いてSiril 1本で debayer 化とRGB分解ができないか?
    (ついでに Siril で測光もやってしまう?)
  • SeeStar S50 を使った変光星観測は、ビギナーユーザーには現状1日1点で済むような観測を提案するほうが、ハードルが低くて良さそう。
  • 本機を使った連続測光観測はデータ処理の面で、ハードルが少々高くなりそうだが、Siril の活用次第で、状況は変わるのかもしれない。
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SeeStar S50 を使った測光観測の検証

はじめに

 このたび、星見屋さんの依頼を受け、日本変光星研究会の所属として、ZWO社SeeStar S50 を使った変光星の測光観測について検証を行うことになった (2023年9月上旬より)。デモ機を星見屋さんから送って頂き、それを検証機として用いている(なお検証に伴う報酬は一切受け取らない)。

2023年9月上旬、星見屋さんからデモ機として送られてきた SeeStar S50.
開封してみたところ. 本体とミニ三脚がすっぽり収まるケースに入っている.
夜間、自宅の庭で運用しているところ. 赤色 LED はバッテリー残量の表示.

 本記事は検証結果を備忘録的に書いていることを先に断っておく(※2023年10月時点の内容なので、アプリのアップデートにより機能等が変わっていることもあるので注意されたし)。予備知識として変光星の測光観測(CCD又はデジカメ測光)をしたことがないと、よくわからないことが多いと思われる。今後、測光結果が VSOLJ に報告しても良さそうであれば、将来的には SeeStar S50 を使ったビギナー向けの変光星観測のマニュアルを作る予定である。

 SeeStar S50 の基本的なレビュー(操作感や撮像等)については、他のレビュワーにまかせるが(天文ガイド11月号にもレビュー記事がありますね)、測光にも関わってきそうな機器の基本スペックについては以下に示しておく。

口径5cm
口径比F4.9
焦点距離246mm
イメージセンサーIMX462 (カラーCMOS)
センサーサイズ1/2.8″
解像度1080×1920
ピクセルサイズ2.9×2.9μm
A/Dコンバーター12bit
画角約0.7°×1.3°(縦長に撮影される
※1ピクセルあたり約2.4秒角
架台経緯台式
制御スマホアプリ (Seestar) より

FITSデータについて

 SeeStar の画像データはスマホで操作していると、スマホ内に画像データがとりこまれるが、これは JPEG 形式である。測光に必要なRAWデータは、FITS形式で機器内部のストレージに保存されている。FITS データを取り出すさいは、付属のUSBケーブルを使ってPCに繋ぐと SeeStar を外部ストレージとしてPCが認識するので、FITSデータを抜き出すことができる。

 SeeStar は10秒露光で撮影したデータをどんどんライブスタックして、S/Nを向上させながら撮影するスタイルの機器だ(用途は電視観望が主たる目的)。そのため、現状保存されるデータはRAW形式 (FITS) であっても、スタック後のデータが基本となる(アプリのバージョンアップに伴い、Ver. 1.8 でスタック前の画像が保存できるオプションが追加されたらしい)。ちなみに、現在のアプリの仕様では、露出時間は10秒で固定されており、変更することはできない (※その後、アプリのアップデートに伴い、20秒、30秒が選択できるようになった)。

 さて、まずはFITSデータのヘッダー部を見に行ってみたところ、以下のように記録されていた (このときアプリの Ver. 1.6.0)。測光する上で気になるパラメータはBITPIXDATE-OBSGAINEXPTIMEあたりだろうか。まず16ビットで記録されているようなのだが、チップは12ビットだった気がするのですが、なぜでしょう?あと、記録上GAIN は0らしいです。露出時間(EXPTIME)については10秒となっており、STACKCNTでスタック枚数を確認することもできる(下記の場合17枚スタック)。それから、DATE-OBS ですが、これは確認すると、ファイルを書き込む時間であり、露出開始時刻でも露出中央時刻でもない。あと撮影領域の(恐らく画像中央部の)RA, DEC がきちんと記録されていた。

SIMPLE = T / file does conform to FITS standard BITPIX = 16 / number of bits per data pixel NAXIS = 3 / number of data axes NAXIS1 = 1080 / length of data axis 1 NAXIS2 = 1920 / length of data axis 2 NAXIS3 = 3 / length of data axis 3 EXTEND = T / FITS dataset may contain extensions COMMENT FITS (Flexible Image Transport System) format is defined in 'Astronomy COMMENT and Astrophysics', volume 376, page 359; bibcode: 2001A&A...376..359H BZERO = 32768 / offset data range to that of unsigned short BSCALE = 1 / default scaling factor CREATOR = 'ZWO SeestarS50' / Capture software XORGSUBF= 0 / Subframe X position in binned pixels YORGSUBF= 0 / Subframe Y position in binned pixels FOCALLEN= 250 / Focal length of telescope in mm XBINNING= 1 / Camera X Bin YBINNING= 1 / Camera Y Bin CCDXBIN = 1 / Camera X Bin CCDYBIN = 1 / Camera Y Bin XPIXSZ = 2.90000009536743 / pixel size in microns (with binning) YPIXSZ = 2.90000009536743 / pixel size in microns (with binning) IMAGETYP= 'Light ' / Type of image STACKCNT= 17 / Stack frames EXPOSURE= 10. / Exposure time in seconds EXPTIME = 10. / Exposure time in seconds CCD-TEMP= 31.375 / sensor temperature in C RA = 325.94166 / Object Right Ascension in degrees DEC = 58.910556 / Object Declination in degrees DATE-OBS= '2023-09-07T13:29:18.968887' / Image created time FILTER = 'IRCUT ' / Filter used when taking image INSTRUME= 'ZWO ASI462MC' / Camera model BAYERPAT= 'GRBG ' / Bayer pattern GAIN = 0 / Gain Value FOCUSPOS= 1723 / Focuser position in steps CTYPE1 = 'RA---TAN-SIP' / TAN (gnomic) projection + SIP distortions CTYPE2 = 'DEC--TAN-SIP' / TAN (gnomic) projection + SIP distortions CRVAL1 = 325.864657001 / RA of reference point CRVAL2 = 58.4367581555 / DEC of reference point CRPIX1 = 620.462905884 / X reference pixel CRPIX2 = 424.348834991 / Y reference pixel CD1_1 = 0.000653455368759 / Transformation matrix CD1_2 = 8.05007464939E-05 / no comment CD2_1 = -8.05028320475E-05 / no comment CD2_2 = 0.000653512893025 / no comment A_ORDER = 2 / Polynomial order, axis 1 B_ORDER = 2 / Polynomial order, axis 2 AP_ORDER= 2 / Inv polynomial order, axis 1 BP_ORDER= 2 / Inv polynomial order, axis 2 A_0_0 = 0 / no comment A_0_1 = 0 / no comment A_0_2 = -8.30492838653E-08 / no comment A_1_0 = 0 / no comment A_1_1 = 2.8993066821E-07 / no comment A_2_0 = -1.56753469845E-07 / no comment B_0_0 = 0 / no comment B_0_1 = 0 / no comment B_0_2 = 9.10789361412E-09 / no comment B_1_0 = 0 / no comment B_1_1 = 1.11958634748E-07 / no comment B_2_0 = -2.18285922543E-07 / no comment AP_0_0 = 7.79688085006E-06 / no comment AP_0_1 = 8.44448105368E-09 / no comment AP_0_2 = 8.30006016543E-08 / no comment AP_1_0 = -4.3014317931E-09 / no comment AP_1_1 = -2.89818945813E-07 / no comment AP_2_0 = 1.5672062992E-07 / no comment BP_0_0 = 9.43750745103E-06 / no comment BP_0_1 = -4.5521709248E-09 / no comment BP_0_2 = -9.12833091452E-09 / no comment BP_1_0 = -1.35940894416E-09 / no comment BP_1_1 = -1.11859946114E-07 / no comment BP_2_0 = 2.18202657047E-07 / no comment IMAGEW = 1080 / Image width, in pixels. IMAGEH = 1920 / Image height, in pixels.

何等まで写るのか?

 先に示したFITSヘッダーの画像を以下に示す。これはテストで撮った μ Cep (ガーネットスター)で、スマホ内に保存されたJPEG画像となる(いわゆる撮ってだし)。画像は露出10秒で17枚スタックされている(総露出時間170秒)。ちょうど南中を過ぎたあたりで撮影したこともあり、画像の上がおおむね北になっている(ただし、撮って出しは上が南だったので、本記事の画像は180°回転をかけている)。

中央に写っているのがμ Cep (ガーネットスター). 2023年9月7日22時29分頃 JST 撮影 (露出10秒×17枚スタック). 時刻はFITSヘッダーから採用しているので、正確には撮影終了時刻となる.

 測光の検証をする前に、単純に画像の見た目だけで、何等まで写っているのか確認をしてみた。比較のさいは、カラー画像をマカリィで読み込み、R, G, B画像のうちG画像を用いている。星表 UCAC4 のV等級と比較したところ、SeeStar S50 (10秒×17) の画像から、16等台の星が写っていた。なお、観測地は自宅の庭で、新月期であれば夜空の明るさは約 20.3 mag/□” となる。

【左】Aladin Sky Atlas の画像. 【右】先のμ Cep の画像の一部.
(【右】の写真はG画像, レベル補正あり)

 16等台が写るということは、当然のことながら冥王星も写るだろうと思い記念撮影。以下のとおり、バッチリ写っていた (ステナビによれば14.4等らしい)。しかしながら、架台が経緯台なので、どれが冥王星なのか同定する場合は、比較する星図が地平座標になっていないと、ビギナーには難しいかもしれない(ステナビなどのソフトを持っていれば座標系をすぐ切り替えられるので問題ない?!)。変光星観測に用いる場合も、目的星の同定は撮像前の必須作業なので、経緯台の場合、星図との比較はある程度の慣れや工夫が必要といったところか。

2023年9月12日21時04分頃 JST に撮影した冥王星. 10秒×19枚スタック (撮って出し).

とりあえず測光してみた

 さて、長い前置きになったが、カラーCMOS画像は測光できるのか?そこでかつて、自分がデジカメ測光の検証でやったことを少し試してみることにした (げげっ!デジカメの検証ってもう13年も前のことなんだ・・・)。

 まずはFITSデータ (先のμ Cep の画像) をマカリィで、G画像のみ読み込む。読み込んだG画像に対し、そのまま飽和していない星について、約30個測光してみた。そして、UCAC4 のV等級を参照し、横軸に器械等級、縦軸にV等級をとってグラフを描いてみると以下のようになった (当然、μ Cep は明るすぎて飽和している)。

SeeStar S50 の撮像データ (10秒×17枚スタック) のうちG画像について測光した結果. 器械等級はマカリィの測光結果より計算. V等級は UCAC4 を参照した. 右上がりに示した破線は、ただの直線で、回帰直線ではない.

 一応、デジカメと同じような感じで、線形性が確認できる。明るい星は8等くらいまで飽和していなさそうで、暗い星は15等くらいまでなら一応測れそうな感じだ。

 ちなみに、飽和していた星のカウント値を見ると、6万5千カウントを超えていた。つまり、FITSのヘッダーにもあった通り、記録じたいは16ビットだということがわかる。しかし、例えば同型のチップを搭載した ZWO ASI462MC についても、12ビットだよ、と表記がなされている。これって本当は12ビットなのに、疑似的に16ビットで記録する「魔法」が使われているようなのだ。もし詳しい方がいれば、この「魔法」が何なのかご教授頂けると幸いである m(__)m

 あと、SeeStar S50 に搭載されているCMOSチップ (IMX462 / ASI462MC) の分光感度特性、これは一応公開されている。グラフを見ると、G画像は 650nm から赤外に至るまで感度があるようだ。しかし、SeeStar S50 には星見屋さんの FAQ にもある通り、UV/IR カットフィルターが標準装備されている。ZWO で公開されているフィルターの透過域を信じるなら、700nm より長い波長域についてはカットされている。ではフィルターありの状態でR, G, B の分光感度特性がどうなっているのか、それは公開されてないし、多分誰も調べたことがなさそうなである。この点については、一度自分で回折格子でも使って測定してみる必要がありそうだ。

 それから、測光のさい1次処理(ダーク&フラット)については、ダークのみ処理された状態になっている。SeeStar S50 は撮像をはじめるさい(以下のスクショのような表示が出て)、ここで必ず最初にダークを撮る動作が入るようになっているらしい。本機は内臓フィルターホイールにダーク用の遮蔽板が入っており、撮影時に自動で勝手にダークを撮って減算もしてくれるようなのだ。

SeeStar S50 の撮像開始前の動作画面. このプロセスでダークが撮像されているらしい.

SS Cyg のモニターと測光

 G画像については、とりあえず線形性も確認できたので、1日1点の観測ですむ変光星で測光のテストをしてみることにした。目的星は結果がわかりやすい矮新星の親分こと SS Cyg (はくちょう座SS星) をチョイス。明るさの変動幅的にも SeeStar S50 との相性は良さそうで、運よくちょうどモニターを初めてからすぐに、以下のようにアウトバーストを検出できた。

SeeStar S50 で観測した矮新星 SS Cyg (画像はG画像). 黄色マークの先にある星が SS Cyg となる. 画像左側が静穏時の暗い姿、右側がアウトバースト時の明るい姿. 画像の上がほぼ北. 円形にトリミングしているのは、視野回転の影響があるので、長方形の画像のままでは (綺麗に見た目良く) 南北を合わせるのが難しかったため.

 ここで、国内のデジカメ測光で主流になっている、”cG” 等級を求めてみることにした。この光度体系は VSOLJ 内で約10年は使用されており、デジカメのG画像について星表のV等級と比較して等級を求めた場合に用いられている。将来的にビギナー層への波及も想定し、計算には永井和男氏がデジカメ測光用に開発されたフリーソフト digphot4 を用いることにした1。このソフトは器械等級とカタログ等級から最小二乗法で1次の近似式を求め、その近似式を使って目的星の等級を算出している。以下に、9月12日における計算の様子(スクショ)を示す。その結果、12日の SS Cyg の明るさは約 11.64 等 (cG) という値が求められた。

 同様に他の数日分の観測日についても測光したので、結果を併せてテーブルに示す。

永井和男氏が開発した digphot4 を用い、SS Cyg の cG 等級を計算した様子. 画像の測光はマカリィにて行い、その結果をソフト内にコピペ. カタログ値は UCAC4 の V等級を参照した.
Date (UT)mag (cG)err
2023/09/12.52711.640.05
2023/09/13.50611.760.05
2023/09/14.51611.720.05
2023/09/25.5568.710.02
2023/09/27.5228.860.06

 計5日間の測光の結果、cG 等級としては良好な結果を得ているように見える。ついでにVSOLJ に報告されている SS Cyg のデータと併せてライトカーブを作ってみた。ライトカーブに落とし込んでみても、SeeStar S50 のG画像を用いた測光結果 (cG) は、他の観測者と大きな差はなさそうである。

SS Cyg のライトカーブ (2023年8月~10月頃までの期間). データは VSOLJ より. SeeStar S50 の測光結果 (cG) は赤色のバツ印で表記している.

現段階のまとめ

  • SeeStar S50 (カラーCMOS) で観測されたFITSデータについて、R, G, B 分解し、G画像について測光の検証を行った。
  • 測光にはフリーソフトのマカリィ(国立天文台)を用いた。
  • その結果、G画像の器械等級とUCAC4 のV等級の間に、線形性が確認できた。
  • 現在の SeeStar S50 の仕様だと(露出時間が10秒固定なので)、およそ8~15等の星が測光可能と考えられる。
  • SeeStr S50 で SS Cyg のモニター観測を数日間行い、アウトバーストが検出できた。
  • デジカメ測光と同じ方法で、SS Cyg の cG 等級 (digphot4 / 製作者: 永井氏) を求めたところ、VSOLJ の報告データと大きく矛盾しない結果が得られた。

SeeStar S50の良き点(測光観測をする上で)

  • 望遠鏡が軽くて、設置と撤収が非常に楽ちん(観測もすぐはじめられる)。
  • 設置時は特に望遠鏡の向きや方位を気にしなくて良い。
  • オートフォーカスがきく。
  • バッテリー内臓なので、電源が不要。
  • 約8万円(電視観望用のオールインワン望遠鏡としては破格)。
  • スマホから無線 (WiFi) で制御するので、室内から観測できる。
  • ZWO 社のプレートソルブ機能により、天体の自動導入で困ることがほぼ無い(初心者に超やさしいと思う)。※ただし、変光星などリストに無い天体の導入にはコツがいる。

気になる点

  • 露出時間が10秒のみ(※その後アプリのアップデートで20秒、30秒が選択可)。
  • Gain は本当にゼロなのか?2
  • 12ビットのチップなのに、16ビットで記録されているのは何故?3
  • 変光星などアプリのリストに無い天体は、アプリの星図とファインディングチャートなどを頼りに導入位置を見定め、プレートソルブするしかない。
  • 経緯台なので、撮影された画像の南北がつかみづらい。(目的星の同定は、地平座標が表示できる星図ソフトと見比べると良き。)
  • ライブスタック後の画像に記録されている時刻は撮影終了時刻となる。(測光を目的とする場合は、スタック前の画像を個々に保存する設定にして、1枚目の画像と最後の画像から露出中央時刻を算出する必要がある。)
  • そもそも時刻は何と同期している?(スマホの時計?)

  1. [2024年2月8日追記] digphoto4 をWindowsで動かす場合、必ず “Visual Basic 5.0(SP3) ランタイム” を併せてインストールしてください。これを入れないとソフトが起動しません。 ↩︎
  2. 他の画像も調査したところ、2023年9月7日~14日の期間に撮影したデータは全て、Gain = 0 でした。このときアプリのVer. 1.6.0 又は 1.7.1 となる。一方で、9月25日、27日のデーは全て Gain = 80 で記録されていました。9月21日にアプリのアップデート(Ver. 1.8)があったので、これが原因でGain =0 から 80 で撮影されるようになったのか、あるいは元々 Gain = 80で撮ってたけど、FITSのヘッダーにちゃんと書き込んでいなかったのか。どっちかですね。なお星見屋さんの情報では、10月12日にアップデートされた Ver. 1.9 においてもGain = 80 で記録されているとのことです。(参考: アプリの更新履歴はDLサイトから見れる) ↩︎
  3. [2023年10月15日追記] この件について岡山の Mhh さんと O さんからコメントを頂戴しました。そもそも、FITS の BITPIX はルールとして 12 bit が記述できないようなのです(有効なBITPIX値: 8, 16, 32, 64, -32, -64 / 参考: FITS ユーザーズガイドより)。そのため、便宜上FITSのヘッダーは 16 bit で記述する必要があるのでしょう。ちなみに、ZWOのライブスタックという処理は加算平均だと思われるので(星見屋さんにも確認済)、それならば、飽和している星のカウント値は12ビット (カウント値4096) のまま頭打ちになるはずだ。ところが、先にも書いたとおり、飽和している星のカウント値は65536に達している。なお、数枚程度のスタック画像も、80枚近くスタックした画像も BITPIX は16となっており、ファイルサイズもほぼ同様だ。まだよくわからないが、12ビットを16ビットに(見かけ上)再スケールするような処理が働いているのかもしれない。 ↩︎

期待したいアップデート

 星見屋さん曰く、将来的にアプリ側のアップデートで、”pro” モードなるものが追加されるかもしれないとのこと。それを見越して?、変光星の測光観測にもあったら嬉しい機能を以下に挙げてみた。

  • 露出時間の変更オプションがあれば嬉しい。これが可能になれば、暗い星を測光する場合は多少なりとも S/N 向上が期待できる(ただし、経緯台式なので、視野回転のことを考えると、10秒より長い露光はあまり現実的ではない側面もあるだろう)。一方で、10秒より短い露出時間が使えれば、もう少し明るい星が測光できようになるなど、観測対象の幅が広がるはずである。
  • 簡便に矢印とかでも良いので、画像の南北を表示できるオプションがあると嬉しい(プレートソルブを使っているので、アプリ側で南北の把握は容易なはず?)。
  • 現状、星図ソフトにGCVS名(変光星名)をちらほら確認できるが、検索リストには入っていないので、GCVSを追加DLして検索できるオプションがあると嬉しい(観測効率が劇的にアップするはず)。
  • 任意の天体(RA, Dec)をリストに追加できるオプションがあると嬉しい(新天体に対応しやすくなる)。さらに、RA, Dec を直接入力して導入する機能もあると嬉しい。
  • 時刻の記録方法のオプションがあると嬉しい(例: 露出開始時刻、露出中央時刻、露出終了時刻の3パターンなど)。
  • 変光星の測光ができるのであれば、掩蔽観測(恒星食)にも使えそうな気がする。動画の撮影機能やオプションが充実すれば、色々検証ができそうだ(例えば動画撮影時の露出制御、スマホのGPSを使った時刻の強制同期、映像内に1/1000秒までの時刻をスーパーインポーズ、avi での保存… etc.)。

さらに検証してみたいこと

  • 透過型回折格子を使った R, G, B 画像の分光感度特性の測定(UV/IRカットフィルターが入った状態でどうなっているのか?)
  • アプリが Ver. 1.8 になったことで、スタック前の画像をFITSで個々に保存できるようになっている。そこで、それらのファイルを使って連続測光観測を試してみたい。観測対象は短周期の食連星など。
  • Ver. 1.8 のアップデートには、マニュアルフォーカス機能も備わったらしい。 現状、露出時間の変更ができないので、デフォーカスすることで、8等よりも明るい星の測光に使えないか検証してみたい。
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赤道儀 ZWO AM5 運用レビュー

今春やってきた ZWO AM5 と ASI294MC-pro

はじめに

 2023年、今春に ZWO 社の波動歯車装置が搭載された赤道儀 AM5 を入手(併せて、同社の ASI294 MC-pro というカラーCMOSカメラも)。このコンパクト且つ軽量な赤道儀を用い、お仕事用の天文資料について、主に移動を伴う撮影・観測に活かしたいと思っている。

 AM5 の特徴についてはすでに多くのレビューがあるので、詳しくは先人に御任せするとして(以下、レビューの例)、

KYOEI Osaka 『AM5赤道儀のインプレッション』
KYOEI Tokyo blog 『ZWO社「AM5赤道儀」を使ってみました! vol.1』
天体写真の世界 『ZWO AM5赤道儀の各部写真』
空と星と山と 『...ZWOのAM5がやって来た!!...』
ボスケのレンキンTV 『話題のZWO AM5赤道儀を開封レビュー』(YouTube)
すみやチャンネル 『ZWO AM5 赤道儀がやってきた』 (YouTube)

ここでは、大雑把に自分がときめいた部分を紹介する。

  • 軽くてコンパクト(重量約5kg)
  • カウンターウェイト無しで運用可能 (13kg まで)
  • ウェイトを装着すれば20kgまで搭載可能

 私は家の庭で撮影することも多いが、時には気合いを入れて県南の暗い空を求め、車で移動を伴う撮影を行うことがある。その場合、手持ちで一番大きい口径25cm 級 (10kg超え) の鏡筒を持っていくとなると、必然的に搭載重量に余裕を持ったデカイ赤道儀が必要で、カウンターウェイトを含めると荷物の体積・重量はどうしても大きくなる。この点に文句を言っていては、往年の天体写真家の皆さんに怒られてしまうかもしれないが、移動撮影において荷物の体積・重量を減らせるのは、機材の組み上げや撤収作業のことを考えると(体力的・精神的にも)、正義であることは間違いないだろう(荷室の狭い軽自動車ユーザーにも嬉しいしことである)。

 ちなみに、ざっくりと他社のドイツ式赤道儀について、搭載重量が似たようなものを本体重量と併せて比較してみると、以下の表のようになる。私は EQ6R pro を持っているので、25cm 級 (10kg超え) の鏡筒の運用には困っていないが、この赤道儀は本体重量が 17kg あり、その重量ゆえ普段は自宅のピラー脚にほぼ固定した状態にしている。もちろん、遠征に出かける場合は、ピラー脚からエイヤっと取り外し、半自作のケースに入れて車に積んでいた。

赤道儀名本体重量 kg搭載重量 kg
ZWO
AM5
513
(20)
SkyWatcher
EQ6R pro
1720
タカハシ
EM-200
16.516
SkyWatcher
AZ-EQ5GT
7.715
iOptron
iEQ30 pro
6.813
iOptron
CEM40
7.218
※AM5 の括弧内の搭載重量はカウンターウェイト有りの場合.

 本体重量・搭載重量&と比較しても、AM5 は本体重量のわりに、搭載重量にかなり余裕がある。しかもどの赤道儀よりもコンパクトである。さらにカウンターウェイトを装着すれば、EQ6R pro と同じ20 kg まで搭載でき、コンパクトボディからは想像がつかないスペックである。このスペックの裏側には波動歯車装置 (ハーモニックドライブ) なる技術があるようで、気になる方はまず天リフさんのサイト(『ハーモニックドライブと赤道儀』)をご覧になると良いだろう。

付属の AM5 専用ケースの外観. プリントされているデザインがとても可愛い.
ケースに AM5 などを収納した様子.

 なお AM5 は標準でケースが付属している。ケースの大きさは縦横約32cm、奥行き約20cmという感じ。これも大変コンパクトで、移動観測に役立つことはもちろん、自宅でも場所をとらない(家族に怒られる心配も少ない)。ケース内には本体スペースに加え、ハンドコントローラーとそのケーブル、別売りのウェイトシャフト、六角レンチを収納するスペースが設けられている。

※写真に写っているAM5底面の銀色の金属盤、短いウェイトシャフト、非推奨位置に装着しっぱなしのファインダー用アリミゾについては、後ほど解説する。

三脚について

 ところで、AM5 にはオプションで ZWO から専用のカーボン製の三脚が販売されている。これまたコンパクトで、遠征時には重宝しそうではあるが、プラス約5万円の軍資金が必要となる。この三脚はカーボン製につき軽量らしく、開き止めの部分にはストーンバッグを装着できるようになっている。つまりストーンバッグに重りを入れて(少しでも重心を下げて)、三脚を安定させる(転倒防止の)狙いがあるようだ。しかしこれでは、折角のウェイトレス赤道儀なのに、三脚用にウェイトを用意する必要がある。

 さらに、色々調べていると、ウェイトレスのドイツ式赤道儀は、やはり場合によってはバランスを崩して、転倒の危険があるようだ(参考: 天リフさん『【注意喚起】ウェイトレス赤道儀の転倒』)。私の場合、10kg 超えの25cm 級の鏡筒をメインで、ビシバシ搭載するつもりだったので、やはり転倒のことを考えると(シュミカセの補正版がバキバキに割れると思ったら夜も眠れない!)、オプションの三脚では何とも怖く感じた。もちろん、この感想は私の運用目的に沿ったものなので、軽量な鏡筒をメインで使う場合は、まったく問題無いと思う。

  そこでまず、AM5の三脚事情について、海外の状況を調べてみると、やはりオプションの三脚ではなく、もうちょっとガッチリした既存の三脚に装着している事例があった。

 こちらの方は、セレストロン AVX 赤道儀に付属している三脚を用い、AM5 が装着できるように固定用のネジを自作されていた。これを見て、手持ちの EQ6R pro 付属の三脚を活かすことを決意。固定ネジの自作をしても良かったが、海外には AM5 を EQ6 の三脚に取り付けるためのアダプターを売っていることも分かった (価格は105ユーロ)。

Geoptik Conversion adapter EQ6 tripod for ZWO AM3/AM5 mount

 これを個人輸入しても良かったのだが、もしかして、日本でも作って販売している人がいないかな?と調べると… おお、あったぞ~!

COSMO工房【T3391】AM5赤道儀⇔EQ6R三脚架台アダプタ

 痒い所に手が届く、さすが COSMO 工房さんの商品ラインナップ。価格は特注で1万円ですが、どうせなら made in Japan と思い、エイヤっと注文 (オプションの三脚を買うより安いし!)。なお特注品につき納期は約一ヶ月だった。

納品されたCOSMO工房製 AM5 – EQ6 三脚架台アダプタ. 抜群の工作精度はもちろんのこと、アルマイト処理もいと美しい.

 こちらが、COSMO工房さんで作って頂いたアダプター。AM5 との接続は3つのネジで固定するようになっている。ちなみに、いざEQ6 用の三脚に固定する場合は、三脚側についている方位調整用の突起を外しておく必要がある。先の写真のとおり、収納ケースにはこの特注アダプターを装着したまま収納することが可能である。

極軸合わせをどうするか?

 AM5 には極軸望遠鏡がない。しかし、今流行りのZWO社 ASI Air という機器を用いれば、スマホ or タブレット用のアプリケーションに実装されている Polar Align 機能を使って極軸を追い込むことができる(参考: getaのブログ 『南の空で極軸合わせ(All-Sky Polar Align)してみました』)。この機能の使用感については、その他、天リフさんのレビュー動画もわかりやすい。皆さんのレビューの通り、この手法は北極星が見えない場所でも行うことができる。

 一方で、KYOEI Osaka さんの紹介にもある通り (『AM5赤道儀をより快適に』)、赤道儀本体の横に付属しているファインダー用アリミゾに、ポータブル赤道儀などで使う極軸望遠鏡を取り付けたり、あるいは QHY の PoleMaster を装着するアクセサリがあるようなのだ。中にはアルミの切り板を加工して、PoleMaster を赤経の回転軸に合わせて装着できるアダプターの自作例もある(参考: 天体写真の世界 『AM5赤道儀にPole Master取り付け』)。

 ちなみに私の場合 AM5 導入前から、 ASI Air plusPoleMaster は両方持っている。PoleMaster 用に追加の投資をしないのであれば、ASI Air で極軸を追い込めば良いのだが… 海外の事例も調べていくと、PoleMaster を AM5 に装着するための 3D プリント用のデータを発見してしまったのである。

Polemaster adapter for zwo mount am5 (by javierflores)

アルミの切り板工作に比べれば、いささか強度面が心配ではあるが、数年前から 3D プリントに手を出していたこと、且つ PoleMaster に慣れていたこともあり、試しに上記からデータをDLして、自分で印刷をしてみることにした。

ホワイトはモデル通りに印刷したもの. グレーはモデルを少し加工して再印刷.
PoleMaster 受け部. 円周の内側にフェルトを貼る加工を施している.
背面のネジ穴はうまく成形できず. 原因は印刷時に生じるサポート材の影響だと思われる.

 こちらが、PLA 樹脂で印刷した PoleMaster 取り付けパーツ。ホワイト樹脂で印刷したものは、DL したデータのまま印刷。

 ちなみに私の場合、他の赤道儀でも運用しやすいように、PoleMaster 底面の赤色アダプターは付けたままにしておきたい(欲張り!)。そのため、そのアダプターの厚み分かさ上げされるので、3Dモデルの通りだと、PoleMaster の受け部分がちょっと浅くなってしまう。その対策として、フェルトを内側の円周に貼ったりもしたが、それでも不意にポロっと取れてしまうのではないかと感じた。そのため、これは一旦不採用とした。

 なお本来、この3Dモデルには、PoleMaster をネジ止めするための穴が3ヶ所開いている。しかし、写真の通りネジ穴の成形がイマイチだったのと、一度ネジ止めすると他の機器(EQ6 など)で運用するさい、取り外しが面倒というのもある。

 そこでモデルをいじって、受け皿の部分を +12mm アップし(伸ばし)、PoleMaster がポロっと落ちないような対策をして再印刷(グレーのPLA樹脂使用)。念のため受け部の内側にフェルトを貼り、PoleMaster がググっとはまるような対策も施した。

 実際にAM5にPoleMasterと併せて取り付けると、こんな感じ。DL した3Dモデルの寸法は良好で、赤経軸の芯に近い位置にPoleMaster を据えることができた。これで極軸合わせをやってみたところ、特に大きな問題は無かったように感じた。アルミ工作に比べれば、剛性や耐久性に不安は残るが、しばらくこれで運用してみるつもりである。なお、某100円ショップ見つけたプラ箱を使い、PoleMAster, 付属ケーブル, 自作アダプターをイイ感じに収めることができた。

 ところで、ASI Ari には Plate Solving なる機能が備わっている(参考例: 天リフ 『Plate Solvingによる対象の自動中心導入(ver1.3から)』)。これはアプリ側で、使用している機材のカメラ名に加え、望遠鏡の焦点距離が概ね正確に設定されていると、天体導入後に自動で写っている星を検出し、アプリ内の星図と比較が行われ、何回か補正しながら視野の中心に自動で天体を導入してくれる機能になる。一度使ってみると、この機能は非常にありがたく、撮影の効率がめちゃ上がって、手放せなくなる。なお視野が傾いていても問題なく動作し(むしろアプリ側でどのくらい視野が傾いているか数値的に知ることもできる)、そのため、極軸が大雑把でも(同期するまで多めに時間を要するが)十分すぎる自動導入が行われる。オートガイドのことも考えると、極軸はなるべくイイ感じに合わせておきたいところだが、さいあく、それほど長焦点でなければ、Plate Solving とオートガイドの力業で、撮影することもできる (実際、f=650mm では大きな問題を感じなかった)。

カウンターウェイトについて

AM5 に EQ6R-pro 付属の延長シャフト (φ 18mm) を使用し、SkyWatcher 製 5kg のウェイトを装着した様子. ウェイトと三脚の隙間がわずかなので、この組み合わせはあまりお勧めしない. 改善策としてはハーフピラーを用いるか、直径の小さなウェイトを用いるべし.

 上の写真は AM5 に Meade 25.4cm (F6.3) を載せた様子。AM5 はウェイト用のシャフトを取り付けるさい、ネジ穴が M12 になっている。好都合なことに、手持ちの EQ6 には M12 の延長シャフトが付属しており、これを AM5 に取り付けることが可能なのだ。ただ、純正のシャフトは長さ 23cm だが、EQ6 延長シャフトは約 18cm となる(冒頭の収納ケース写真に、短いシャフトが入っていたのは、 EQ6 用の延長シャフトだったからである)。このシャフトは純正より少々短いこともあり、上の写真のとおり、SkyWatcher の5kg のウェイトを用いると、三脚とのクリアランスが非常に狭く、ここにケーブルが噛んだりすると断線の恐れも出てくる。そのため、今はこの 5kg のウェイトを用いていない。対策案としては、 AM5 用のハーフピラーを併用するか、より直径が小さいウェイトを用いるほうが安心である。

手持ちの φ18mm のコンパクトなウェイトたち. 1.3kg, 2kg のウェイトはミザール製 (φ18mm用). 3kg のウェイトもミザール製だが、これはφ14mm用だったので、鉄工所に依頼して18.2mmの穴に拡張してもらった.

 そこで、現在はこのようなコンパクトな3種のウェイトを用いている (数年前、EM-1 用にヤフオクにて格安でゲット)。SkyWatcher のシャフト径は 18mm なので、これはタカハシと同じ規格となる。私はタカハシの EM-1 赤道儀を所持していることもあり、ウェイトを通すシャフト径が同じだと、EQ6 と使いまわしが効くので、実はありがたい。AM5 の純正シャフトは径が 20mm らしく、これを使う場合はビクセン系のウェイトを用意する必要がある。スペック的には 25cm を載せても、カウンターウェイトはいらないのだが、転倒だけはやはり想像するだに恐ろしい。私の場合、鏡筒単体の重量が 10kg を超えるときは、気休めでもいいので、今のところ 2kg + 3kg 程度のカウンターウェイトを装着するようにしている。

ASI Air plus とガイド鏡の取り付け

 AM5 に限らず、ASI Air (plus) とガイド鏡の取り付けは、使用する鏡筒や周辺パーツで様々なパターンがあるだろう。それゆえ、取り付け方法は色々悩む部分でもある。そもそも、AM5 本体にはビクセン規格のファインダーシューを取り付けられる部分が2ヶ所ある。デフォルトでは本体側面にファインダー用のアリミゾが固定されている。しかし、星見屋さんのホームページにある通り、ここに ASI Air を取り付けると、運用時に干渉するらしく、この部分への取り付けは、ユーザーの間でも推奨されていないと思われる。そのため、ASI Air の取り付け位置は、鏡筒用のアリミゾの側面が推奨されている (詳しくは先の星見屋さんのホームページ参照)。

MEADE 25.4cm にファインダーシューを取り付け、ASI Air plus を装着している様子.
さらに ASI Air plus の底面にファインダーシューを取り付け、ORION 社のガイド鏡を装着.

 最初は、星見屋さんの言う通り、 AM5 のアリミゾ側面に ASI Air を取り付けても良い気がしていたのだが、使う鏡筒によっては、ASI Air からカメラやガイド鏡までの距離が生じる。そして、何本ものケーブルが赤経・赤緯の駆動部分周辺に集まると、絡まって断線しないか心配になる(センスのある人は、うまく束ねて配線するのだろうけど)。そこで私の場合(上の写真のように)、ASI Air はなるべく鏡筒部分におんぶさせ、カメラやガイド鏡の近くに設置するようなスタイルにした。まぁ、この方法でも、運用時はケーブルをある程度整理しておかないといけないのは変わらないが… (^^;

 ちなみに、MEADE 25.4 cm のファインダーは、所謂ビクセン規格のアリミゾではない。そのため、私は追加でガイド鏡を載せるための、ファインダーシューを鏡筒に取り付けている。ASI Air plus はその追加のシューに装着し、(写真のように)さらに ASI Air plus の底面にもファインダーシューを追加し、ガイド鏡を装着している。ガイド鏡も含めると、トリッキーな装着方法なので、変なチカラがかかって、ASI Air plus がモゲないか心配ではあるが、オートガイド撮影中、特に問題は感じなかった。しかし、同じようなことをニュートン式 (SkyWatcher BKP130) でもやってみたところ、オートガイドは問題無くできるがのだが、何ともアンバランスな感じだったので、別な取り付け方法をしばらく思案することにした。

アマゾンで見つけた謎の3連アリミゾのファインダー台座. (参考: YouTube で「すみやチャンネル」さんがこの製品の紹介をされていた)

 そこで発見したのが、こちら。アマゾンで見つけた謎の3連アリミゾのファインダー台座である。しかもお値段約1700円。これは使えば、ASI Air plus に無理をさせずに、ガイド鏡とセットで搭載することができる。なお BKP130 への装着については、既存のファインダーシューにはセットせず、鏡筒バンドにアルミの切り板で橋げたを作り、そこに3連アリミゾを取り付け、ASI Air plus とガイド鏡を載せるようにした。

BKP130 に3連アリミゾ台座を装着し、ASI Air plus とガイド鏡を載せた様子.
鏡筒バンドにアルミの切り板を橋渡し(自作)し、そこに一つファインダーシューを設けた.

 はたして、これがスマートな載せ方か?と問われれば、答えは人それぞれだろう。少なくとも、ASI Air plus 本体にガイド鏡をさらにおんぶさせるよりかはマシかなと思っている次第。BKP130 の場合、既存のファインダーシューに載せても良かったのだが、鏡筒全体の重量バランスを考えれば、鏡筒の中央部に載せるほうがバランスがとりやすいと思う。あと眼視用のファインダーは載っていると、何かと便利なこともあるので、既存のファインダーシューを潰さないのは、自分的には吉である。なお現在は、MEADE 25.4cm を運用する場合にも、この3連アリミゾを鏡筒に載せ、そこに ASI Air plus とガイド鏡を取り付けて撮影している。

さいごに

 個人的な感想だが、今のところAM5はサイコーの相棒になってくれそうである。軽量・コンパクトにも関わらず、搭載重量が大きいため、遠征時には本当に重宝する。その一方で、ASI Air での運用に手を出すと、機材がどんどん ZWO 縛りになってくるが、そのぶん撮影効率がアップするので、投資する価値はあると思う。冒頭でも述べた通り、今後本機は主にお仕事用で、遠征を伴う資料撮影で活躍させていく予定だ(プラス、移動が必要な恒星食の観測などでも)。最後になったが、1枚だけ AM5 で撮った作例を以下に示し、この記事を締めくくりたい。

三裂星雲 M20. 2023年5月16日撮影.
Meade 25cm (F6.3) + AM5 + ASI294MC-pro (+ ASI Air plus + ASI120MM-mini), コマコレ無し.
120sec × 85 (加算平均), Gain 120, Bin 1, 冷却-10度, ダーク&フラット補正済, トリミングあり.
ステライメージ9 -> Photoshop -> PixInsight (BXT)

【備考】
本記事に出てくる ZWO AM5 と ASI294MC-pro は一般財団法人全国科学博物館振興財団の助成を受けて導入しています.

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4月こと座流星群2023 (ATOM Cam2)

 4月こと座流星群の極大夜 (2023年4月22日の夜)、2台の ATOM Cam2 (北向き&南向き) で捉えた流星たちです (散在も混じっています)。撮影後のデータに対し、meteor-detect (製作者: 長谷川均氏/東京) を使ってサルベージしました。動画では北向き&南向きのデータを併せて時系列で並べています。(※動画のサムネイルは南向きカメラの画像を比較明合成)

北向きカメラの比較明合成
南向きカメラの比較明合成

 カメラ(方角)ごとに検出された流星を比較明合成してみると、上記のような感じになりました。北向きは2発、南向きは10発の流星が受かっていました。このうち群流星っぽいのは9発ですかねぇ。ちなみに、北向きカメラの北極星、約5時間の差がある画像の比較明合成なので、広角とはいえ(当たり前ですが)日周に伴う移動で二重に写っています。

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ATOM Cam2 で捉えた火球3連発 (2023年4月)

 ATOM Cam2 で3つの明るい流星をゲットしました (動画内の2つ目は明るさ的に火球ではなさそう)。いずれも標準アプリはスルーしており、徳島県内の他の観測者の情報 (SNS発信) をソースとして、取り急ぎ人力でサルベージした次第。3つの流星について、動画では1本にまとめました。各流星の情報&比較明合成画像は以下のとおり:

日時 (JST)カメラの向き出現場所情報ソース
4月9日
22:07頃
北向きこぐま座K. Maruoka 氏
4月10日
04:04頃
北向きりゅう座K. Maruoka 氏
4月17日
04:49頃
南向きいて座,
へびつかい座
N. Hashimoto 氏
2023/04/09, 22:07 JST
2023/04/10, 04:04 JST
2023/04/17, 04:49 JST
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ATOM Cam2 標準アプリで火球検出 (3/7)

2023年3月7日0時38分頃 (JST) に検出された火球. 徳島県阿南市にて. カメラは南向き.

久々に、Atom Cam2 の標準アプリにて、火球が検出されました。気長に日々監視していれば、標準アプリでも数ヶ月に1回くらいのペースで火球が受かりますね。今回の火球はおそらくポンプ座 or らしんばん座のあたりで流れた感じ。

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小惑星2001 CC21 による恒星食の観測

観測キャンペーンが行われている小惑星 2001 CC21 による恒星食の観測について、簡単にレポートを書き残す (ただの日記です。あまり科学的な話は無いのであしからず)。

なお、筆者は小惑星による恒星食の観測について、過去1回しか行ったことがない(この種の観測はヒヨッ子レベルであることを先に断っておく)。その過去1回とは、ふたご座流星群の母天体ファエトンによる恒星食 (2021年10月)である。これについては、いくらかネット記事があるので、代表的なものを以下にまとめておく。

ふたご群の母天体ファエトンによる恒星食、観測大成功!(AstroArts)
小惑星Phaethonによる恒星の掩蔽観測に成功 (惑星探査研究センター/研究員ブログ)
集合場所は「小惑星の影」で (COSMOS/ISAS・JAXA)

さて、今回の 2001 CC21 という小惑星は、日本の探査機はやぶさ2(拡張ミッション)の目標天体らしく、JAXAのホームページにもキャンペーンの概要が公開されている。なぜ、恒星食を観測するのか、ここではその科学的な目的は割愛するが、私自身、ファエトンの観測を通じて単純に「恒星食の観測、おもしろいな」と強く感じていたので、今回のキャンペーンにも参加してみることにした次第(ありがたいことに、ファエトンの観測を一緒に行った研究者のUさんや、キャンペーンの音頭をとっているHさんから、直接お声掛けも頂いた)。

キャンペーンでは、徳島(四国)から観測できそうな機会が2回ほどありそうだった。予報によると、2023年2月6日と3月5日。もし出陣するとなると、2月分は徳島県鳴門市(大毛島)、3月分は高知県東洋町のあたり。本番までにgoogleアースとストリートビューを飽きるほど見て、観測場所を選定。2月に関しては事前に、日中に下見を行ったりもした。

2月6日分の観測予定地@鳴門市大毛島内. 北向きの空を撮影. 奥には鳴門大橋も見えていた.

しかしながら、2月6日については、数日前の天気予報がかなり怪しい雲行きで、当日にいたっては完全に曇天。徳島での観測は成立しませんでした(他の地域に布陣されていた方々も悪天候につき不成立だったようです)。

そして、きたる3月5日。実はこの日、私は仕事で終日天文系のイベントがあり、現場責任者として働かなければなりませんでした。さらに、高知県東洋町にまで行かないといけないので、家族との折り合いや、当日の出発準備と移動時間を考えると… うーん、保留かな。と、思っていました。しかし、幾人の方々から、「3月5日観測しないの?」というお声掛けを頂き、一念発起して出陣を決意。家族 (妻) の寛大な理解を得て、5日夕方に出発しました。嬉しいことに、しかも予報は快晴でした!

自家用車 (マツダ フレア) に積み込まれた機材ども. 左の箱に望遠鏡、右の箱に赤道儀が入っている. 三脚は後部座席の足もと. 助手席には PC など小物類. 軽自動車だと全席つぶさないと載らない!徳島に来てから、県南によく遠征撮影にいくので、機材のパッキングはある程度慣れています.

ちなみに、持って行った主な機材は以下のとおり:

  • MEADE 25.4cm (F6.3) / シュミットカセグレン
  • Sky-Watcher EQ6R pro (赤道儀) + WiFi モジュール
  • 三脚 (赤道儀付属品)
  • ZWO ASI290MM (メインカメラ)
  • QHY PoleMaster
  • VK-172 (GPS受信機) + USB延長ケーブル
  • ポータブルバッテリー×2 (1つは予備)
  • ノートパソコン
  • Android タブレット (SkySafari用/自動導入)

まったくどうでも良い話ですが、旅の途中、腹ごしらえも。阿南市南部・橘町という港町にある「かまたまーる」といううどん屋さん。個人的には市内で一番好きかもしれないうどん屋です。観測のためのエネルギー充填として、釜揚げうどん大、とり天を注文。美味い!他にもカレーうどんがオススメですし、ちょっと奇をてらうならチーズ釜玉うどんもオススメ。まぁ、旅といっても、私の場合は車で片道1時間40分くらい。他の布陣場所ではもっと大移動している方もいると思うので、恒星食観測の分野ではライトな移動なのかもしれません。

さて、現地には20時頃到着。道中、高知に行くほど雲がいそうな雰囲気だったので、内心ヤバイかもしれないと思っていました。案の定、到着したときは、月もわからぬほどに雲がorz 機材を出す気すらおきないほどでしたが、GPV を見てみると、21時に向けて少し雲がとれそうな予報が出ていたので、テンションが上がらないけど、とりあえず半分ほど機材を組み上げたのでした。

すると、予報どおり21時くらいから雲がなくなり快晴に一変!やったぞー!急いで残りの機材を組み上げ、極軸をあわせ、目的星を導入。恥ずかしながら、実は今回、目的星の導入がぶっつけ本番でしたが、変光星関係で慣れていることもあり、ファインディングチャートとの睨めっこ(目的星の同定)は、難なくクリア。しかし途中、自動導入(無線通信)に使っているタブレットがフリーズして、再アライメントが発生して往生しました。あと、撮像ソフト Sharp Capture を普段使っていないので、ソフトの設定を思い出すのに少し手間取りましたので、やはり一発勝負みたいな観測は事前の練習をちゃんとやっておかないといけませんね(大反省)。そういえば、ファエトンの観測のときは、自宅の庭で事前に2~3回は練習をしてました (^^;

観測時の観測機材と私. 2023年3月5日、高知県東洋町某所にて.

そうこうしてるうちに、目標時刻 (21:46分頃) が迫ってきて、やべー!まだ GPS の同期してないやん!VK-172 をブスっと PC にさせたのが、なんと4~5分前。綱渡りな状況で、とりあえずASI290MMの録画ボタンを押し、VK-172 の発光信号を記録。目標時刻の前後1分程度(計約2分間)は、PC の画面を凝視し続けました。今回の食は0.1秒しかないとのことだったので、ちょっとでも余所見をすると見逃すレベル。しかし観測中、減光らしき現象は見えませんでした(翌日行った測光でも明瞭な減光は見られませんでした)。

Limovie による測光結果 (2023/03/05). 目的星 TYC 4082-763-1 (約10等). ビデオの露出時間30ミリ秒、ゲイン500にて.

今回、私の布陣した場所では、恒星食による減光は検出されませんでしたが、帰り道、道の駅に寄ったときに、念のためメールをチェックしてみたら… 他の観測地点において、「0.1秒消えました!」との速報が流れているではありませんか!!ええー!すごい。ほんまに減光してるところ、あるやん!と、ひとり車中でテンションが爆上がり。というのも、今回の恒星食は予報じたいの誤差が大きく、予報帯のどこで減光するかわからない、というレベルでした。もちろん、自分の観測で減光していたら有頂天だったとは思いますが、他の地域(計18ヶ所)の人たちと、連携・協力しながら観測布陣がしかれ、多くの「減光無し」があったからこそ、浮き出てきた成果(大成功)であることは間違いありません。

原理はよくわかっていませんが、今回3月5日のキャンペーン観測によって得られた「減光」データから、今後、小惑星 2001 CC21 の軌道要素が劇的に改善するらしいです。それによって、掩蔽帯の予報精度も大幅に向上するらしく、次の恒星食では多くの観測者が減光を検出できるようになるようです。キャンペーンの HP によれば、次回3月26日が最大の山場になりそうですね。場所は九州南部(鹿児島方面)なので、私は馳せ参じることができませんが、次回の観測成功 (+ 晴天) を、ここに祈願したいと思います☆

観測された皆さん、本当にお疲れ様でございました。

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2台のAtom Cam2で流星のリアルタイム検出

北向きカメラ (2023年1月10日の晩). 長めの経路の流星を2発ゲット.
南向きカメラ (2023年1月10日の晩). 綺麗な月暈が出ていたようだ.

 meteor-detect (製作者: 長谷川均氏/東京) を使ったリアルタイム検出を動かすことできるようになったので、現在運用中の2台の Atom Cam2 について、1台の PC で同時にリアルタイム検出が可能か、テストしてみました。先に結論を述べると、とりあえず2台分、リアルタイム検出が動いてました。

 なお PC は CPUが Core i5-8400 (2.80GHz)、メモリが 16GB という感じで、ネット環境は WiFi で接続しています。ちなみに無線親機は tp-link の Archer AX73 です(ATOM カメラたちもこの無線機を介しています)。

コマンドプロンプトを2つ開き、カメラごとに meteor-detect のリアルタイム検出を動かしている様子.

 (私の場合ですが)2台のカメラについて meteor-detect のリアルタイム検出を走らせるときは、コマンドプロンプトを2つ開きました。上の例は、カメラごとにリアルタイム検出の指令を打って、プログラムを動かしいます。

2台分のリアルタイム検出を走らせているときのPCの状態.

 ちなみに、2台分のリアルタイム検出を動かしているとき、PC がどんな状態になっているのか、一応確かめてみました。概ね CPU 使用率は 40~50%メモリも50%くらいでした。1時間くらい PC の状態を監視していたのですが、ふと暇になって Chrome を立ち上げてネットサーフィンをしたところ、片方のプログラムが「応答無し」になり、沈黙していまいました (^^; 30分くらい経っても復活しなかったので、沈黙した側のコマンドプロンプトを閉じ、再度リアルタイム検出を走らせると、ちゃんと2台分動いてました。PC のスペックにもよるでしょうが、リアルタイム検出中は他に何もしないのが吉ですね。

 もちろん、PC が2台ある場合は、カメラごとに分けても良いでしょう。テストの結果を見るかぎり、搭載メモリが8GBのPCだと、1台のPCで2台分リアルタイム検出をするのはしんどいかもしれません。ところで、リアルタイム検出については、以下のようなお話も:

meineko さんのツイートとリプライ. (余談ですが、meineko さんは日本を代表する変光星観測者です)

 通信が安定しないこともあるので、私はリアルタイム検出におけるある程度の見落としは仕方ないと感じております。一方で、(1)リアルタイム(2)自動検出(3)検出結果がすぐ確認できる(4)しかも無料、という点を見えれば、これに勝るものはないでしょう。今後、リアルタイム検出するか、後からサルベージするかは、私の場合、目的によって使い分けると思います (^^v

 ところで、これまでモニターしてきたデータは全て保存してあります。1年以上運用した1台の ATOM のデータだけで約 1TB もあり (途中カメラの故障で休止期間があったが)、最近 D ドライブの HDD を 4TB から 8TB に増設しました。過去の元データについては、ある程度サルベージが完了したら、削除する予定です。

 

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meteor-detect を用いた流星のリアルタイム検出

2台のATOM Cam2 で撮影した2023年しぶんぎ座流星群 (1月3日極大夜). 北向きカメラはリアルタイム検出、南向きカメラは撮影後にサルベージ. 散在も混じっています.

 meteor-detect (開発者: 長谷川均氏/東京) の神髄は ATOM Cam2 で流星のリアルタイム検出ができる点といっても過言ではないでしょう。meteor-detect を導入以後、私はなぜかリアルタイム検出をうまく動かせなかったのですが、昨年末ごろから、ついに動かすことができました (T_T/

 さっそく、2023年のしぶんぎ座流星群の極大夜で運用してみたところ、正常に動作していることを確認できました。流星群じたいは2台の ATOM Cam2 を走らせ、1つは南向き、もう一つは北向きに。リアルタイム検出は北向きカメラに対して作動させました。以下、簡単にやり方をまとめておきます (PC に meteor-detect が入っている&動作していることが前提)。

 まずは ATOM 側のスマホアプリにて、「設定 (歯車のマーク)」-> 「その他」 -> 「PC で再生」 -> 「オンにする」という順番で、設定を行います。この設定を行うと、下記のような画面が現れます。

 じつはこの機能、 PC 上で VLC を使えば、ATOM Cam2 の映像が見られるようになる設定です。いつの間にこんな機能が!!それはさておき、表示されたリンクを使って、コマンドプロンプト (PC) で下記のような感じで meteor-detect 側に指令を出します。

python atomcam.py -e 2 -u rtsp://8433:0000@192.000.0.01/live

 上記のリンクはダミーです。 “-e 2” の部分はオプション設定で、私は検出された動画を2秒で切り出して欲しいので、こうしています(このオプションは省いても大丈夫)。なお WiFi (通信)の設定など人によって運用の仕方が異なるとは思いますが、おそらく多くの人は毎回 ATOM アプリが示してくれるリンクが変わっているはずなので、リアルタイム検出のコマンドを打つときは、リンクの情報を確認しておいたほうが良いでしょう。

コマンドプロンプトでリアルタイム検出が始まったところの様子.
リアルタイム検出がスタートすると、ATOM 側の映像が PC 上にも表示されます。「×」を押して消しても、何度も表示されるので、私は最小化しています.

 ちなみに、meteor-detect の readme を改めてよく見ると、

ATOMCam2のファームウェアバージョン4.58.0.91 以降から正式に RTSP をサポートしたので atomcam_tools のインストールがなくてもリアルタイム検出が可能になった。ただし、ATOMCam Swingの場合はこれがないとRTSP配信ができないので必要となる。

と書いてありました。なるほど、と思って ATOM のファームウェアアップデートの履歴を公式 HP に見に行ってみました。

ATOM Cam ファームウェア更新の履歴 (公式HPよりスクショ).

 すると、2022年5月18日から RTSP がサポートされていたようです。私は atomcam_tools がうまく動かせなかったので、リアルタイム検出は「まぁ、そのうちできたらエエか」ぐらいに思っていました。ところが、たまたま年末に Facebook で、 meteor-detect ユーザーのお一人である岡山の T さんの投稿にコメントしたところ、「meteor-detect じたいが入っているなら、リアルタイム検出はこんな感じで簡単にできるよ」という情報を頂戴。実際やってみると、「ええ!こんなに簡単だったのか!」とびっくり (^^; いかに自分が長谷川さんのマニュアル (readme) をちゃんと読んでいなかったか… 反省でございますw

 何はともあれ、リアルタイム検出が使えるようになり、ATOM Cam2 を使った流星撮影がさらにハッピーになりそうです (^^v

PS.
 リアルタイム検出は1台の PC で、2台のカメラについて動作できるのかな?!また試してみないと。

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meteor-detect の自動ループ処理

自作のバッチファイルは meteor-detect プログラムと同じ階層に置いて実行しています.

 Atom Cam2 で流星撮影を行っているユーザーにとって、Python の meteor-detect は必殺のプログラムです(製作者: 長谷川均氏/東京)。このプログラムのおかげで、超効率的に流星を検出することができます。このプログラムの利用者は恐らく、リアルタイムで検出コードを走らせている方が多いかと思いますが、私はなぜかまだうまく動かず… とりあえず、撮りためたデータを後から、検出にかけています。

 meteor-detect を使って、撮影後のデータを調べる場合(デフォルトでは)、1時間置きに保存されているディレクトリに対して、毎回時刻を変えてコマンドプロンプトに指令を打たねばなりません。この方法で地道にやり続けても良かったのですが、人間どうしても楽をしたいという欲が出てくるので、どうにか検出範囲を指定して、ループ処理してくれるバッチファイルを作りたくて仕方がありませんでした (^^; とはいえ、なかなか集中した時間がとれずにいましたが、今年のふたご座流星群ではいよいよ、ATOM Cam2 を2台体制にしたこともあり、これを機に集中して手を動かしました。

 しかし!期待しないでください(え、そもそも需要無い? ^^;)。私は3流のナンチャッテ R 使いなので、中身はとってもショボイです。でも一応、1日おきのデータに対して自動ループ処理ができたし、目的は達せています。公開するのも恥ずかしいレベルですが、少しでも誰かの役に立てば幸いです。

set yyyymmdd=20221215
set startHH=18
set   endHH=23

for /l %%i in (%startHH%, 1, %endHH%) do (
  python atomcam.py -e 2 -d %yyyymmdd% -h %%i  
)

set yyyymmdd=20221216
set startHH=0
set   endHH=5

for /l %%i in (%startHH%, 1, %endHH%) do (
  python atomcam.py -e 2 -d %yyyymmdd% -h 0%%i  
)

 使い方は基本、set という部分の数字について、サルベージしたい任意の年月日と時刻を入力して使います (この変更作業はメモ帳やサクラエディタなどを使うと良き)。例えば上記の場合、前半夜として2022年12月15日18時~23時、後半夜として16日0時~5時をサルベージ範囲としています。これをメモ帳などで、拡張子 .bat として保存します。そして、サルベージしたいディレクトリ群 (meteor-detect プログラムファイル) と同じ階層に置いておけば、冒頭の画像にあるようにバッチファイルをダブルクリックすると、指定した範囲のディレクトリについて、自動で meteor-detect を実行し続けてくれます。

自作のバッチファイルで検出の指令を出しはじめたところ.
23時から翌日0時へと、ループ処理が切り替わったところ.

 プログラムが得意な人がみたら、なんて無駄なコードの書き方なんだと怒られてしまいそうですが・・・ 先にも述べた通り、私の目的は達せられているので、これでヨシとしますw これまで観測したデータは念のため全部残していたので(200日以上)、過去データのサルベージ効率が一気にUPします。

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